某マカロニウエスタン(語弊があるな)小説パロ



 横殴りに吹く風が彼の黒髪を躍らせる。狭められた視界に頓着することなくぎらぎらとした視線で睨みつけてくる、彼は今日からオレの弟子だ。
 オレはキャバッローネファミリーのボス、ディーノ。通称跳ね馬と呼ばれている。目の前にいる少年よりも幼い時期に、オレはこの仕事を継いだ。何故かと問われれば、それがオレのできる唯一の償いだったからだ。喪った父親のために、ファミリーのためにオレは自分自身の手を汚すことを決心した。それはもう揺らぐことはない。誰だってきっと泥にまみれることを厭ったまま何かをまもることなどできやしないのだ。
 そして今、オレは一人の少年をオレと同じ業の道に引き込もうとしている。穢れた血筋とは無関係の、潔癖といっていいほど、己の道を突き進もうとしている少年を。
 凶悪そのもののオレの元家庭教師が仕事を割り振ってきた時、躊躇いは全くなかった。彼に選択の余地はなく、恨むなら幼いながらに身につけた、その強さを恨むべきだ。だのに、彼を目の前にしてオレは揺らいでいた。
 反論も、恐怖も、予想していた。いきなりマフィアの抗争に巻き込まれて納得する奴なんていないはずだ。だが彼は全くの無関心で、ただ戦いのみを求めていた。艶やかな黒髪、そして輝く瞳。オレを倒すためにその一挙一動を窺っている黒曜石のような瞳。彼は同じ年頃のオレが憧れていた全てを持っていた。強さ、純粋さ、怒り、そして自由。
 「僕は指輪の話なんてどーでもいいよ」初めて会ったとき彼はいったのだ。「あなたを咬み殺せれば」
 その言葉は鞭よりも強くオレを呪縛した。オレはついに、ずっと求めてきたものを、オレ自身の敗北を見つけたのだ。今は力が及ばずとも、いつか彼はオレを打ち倒してくれる。だがこのときほど強く、このときほど激しく、生きたいと望んだことはかつてなかった。そしてこの瞬間ほどに、生きて存在することが、オレにとって意味を持ったことはなかったのだ。彼を生かしたい。オレの手で強くしたい。そしてオレ達が求めているものが何なのか伝えたかった。
 オレは鞭を構える。視界の中で、戦闘体勢をとる美しい姿が、オレのなかの衝動を教えてくれた。
「まだ名前も名乗ってなかったな。オレはディーノ。跳ね馬ディーノだ。ディーノって呼んでくれていいぜ」
「跳ね馬」
「……いや、恭弥にはディーノって呼んでもらいたいなー、なんて」
「跳ね馬」
「や、かわいい恭弥には是非ディーノって呼んで欲しいなー、みたいな? ね?」
「うざい。跳ね馬」
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