「ヤドリギと〜」から派生天気予報電話


「もしもし恭弥か?恭弥恭弥きょうやきょうやきょーやー」
「聞こえてる。そういうのをね、オレオレ詐欺っていうんだよ」
「いわねー! 絶対いわねー!! むしろ恭弥詐欺?恭弥は存在自体が詐欺だからな。仕方ねーなー」
「何が」
「そういうすっげーかわいくてかっこいーのに凶悪なとこ? あでも凶悪なとこもかわいーしなー。一周して詐欺じゃねぇのか? どう思う?」
「……用件は何」
「あー……声が聞きたい?」
「それほどでも?」
「御挨拶だな恭弥!オレが聞きてーの!きーかーせーろーよー」
「あなたはご挨拶も出来ない人だね。こういうときはまず名前を名乗って、時候の挨拶ぐらいするものだよ」
「……? あと五年くらい残ってっけど?」
「何が?」
「違うのか。……あ、あれな。日本は今十三時二分三十五秒だ。で、イタリアが二十い」
「時報じゃない。……なんであなたそんなのすぐわかるの?」
「時計してるから! 恭弥にもやったろ? イタリアの時間設定しておいたじゃねぇか」
「……あああの文字盤が二つあるやつ。見にくい」
「しろよ! ペアだぞ!」
「しないよ。計算すればすむ」
「……そかそか。恭弥は暗算得意そうだよな」
「まあね。ね、まるきり同じ男物の時計二つ買うって……寒くない?」
「それは……いやでも女でも男物つけるやつとかいるし」
「……ふうん」
「怒んなよー。時間じゃなかったらなんなんだ?」
「怒ってない。まあ確かにあなたがあんなの唱えるなんて無理だよね」
「なんだよ。冷てーな。やれば出来る子だぞ、オレは」
「わけもわからずに安請け合いしない」
「……はい」
「いいよ、天気の話とかそんなので」
「あ、天気な。あれか。何だ最初からそういえよ」
「うん?」
「……あ、でもいらなくね?」
「何で」
「どうせこんな風に電話してくるのってオレだけだろ?」
「どうせ」
「あとは風紀のやつらだけだろ? 間違えようがないじゃん。恭弥友達いねぇし」
「いないけど」
「な、他にいないだろ?」
「……いるけど」
「…………誰だよ」
「っつ!……赤ん坊…」
「う、……あそうか、そか。電話のやり取りとかしてんだな」
「何回か」
「そんだけだろ?」
「……赤ん坊もオレだぞ、っていうよ」
「……それに対して不満はないのですか、恭弥さん?」
「かわいすぎるよね」
「そうじゃなく!」
「ちょっとそっけなくてさみしい」
「……」
「あなたと間違えるかもしれないから……、あ、間違えないね。間違えようがない。直さなくてもいいよ」
「……バカ!」
「誰が」
「バカ! 恭弥がバカ!! 畜生これからは、ちゃんと挨拶して天気ジホーもしてやるからな!驚くなよ!!」
「うん、がんばってね」


……でその後。
「きょうやー。……あ、こちらディーノ。明日は昼から雨だぜ!」
「……明日? イタリアが?」
「イタリア? いや調べてないから知らねぇ。多分晴れんじゃね」
「……そう」
「傘忘れんなよ!」
「誰かから奪うからいいよ」


一週間後。
「恭弥恭弥恭弥!明日は一日雨!」
「……。どちらさま?」
「オレ! ディーノ! ここんとこ寒くなってきたろ? 風邪ひいてねぇ?」
「ひいてない」


数週間後。
「もしもし?ディーノです! 明日はあ」
「あなたって雨男?」
「え……やそうじゃないと思うけど」
「あなたが電話してくるときって大体雨だよね」
「……いやそうでもないだろ!」
「そうだよ」
「いやそれはさ、毎日電話できるわけじゃねぇけど」
「……」
「天気が悪い時は連絡しねぇと恭弥が風邪ひいちゃうだろ?」
「しらない。好きなときに電話してきなよ」
「……それって毎時連絡してこいと同義だって知ってるか……?」


そして冬。
「恭弥!ディーノだ。明日は」
「知ってる」
「……そか」
「もう降りだしてるよ」
「そうか。積もりそうだな。いま空港でな、もうすぐ搭乗する」
「うん」
「明日の昼にはつくから。待ってろよ」 
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