ピンチは逆にチャンスです




「いやーまいったぜ、風呂入ってる時にいきなり鳴りだすんだもんなー」
「え………それは大変でしたね」
 ちろちろと視線を泳がせながら綱吉は相槌を打った。なんでこんなことになっているのだろう。
「普通そういう時は服着るまで待つのが礼儀ってもんだろ? なのに恭弥全然遠慮しないし」
「………へ? いやヒバリさんホテルまで来たんですか?」
「おう、戦いたいっていうから夜なら遊びに来いよっていっておいたしなー。恭弥はいつもは長風呂なのにさ、ほら、雲雀の行水っつーの?」
「あたりまえだろ、いつ鳴るかわからないんだから」
 むす、と頬を膨らませていた雲の守護者が本日初めての発言をした。相当お怒りのようで、っていうか遊びに行って風呂入ったんですかヒバリさん。
「すぐ出たがるし。でもこの寒い時期にそんなんだめだろー。だから百まで数えようぜって………八十までいったけ? きょうや」
「違う七十八」
「だっけ? そこで時計が鳴ってさー、たんま、っつてんのに恭弥は腹狙って殴ろうとするし」
「アレ殴らなかっただけでも感謝してほしいよ」
「アレ殴るんなら自分の腹殴んなきゃいけなかったってだけだろ」
「………」
 アレってなんだ、とは綱吉には聞けなかった。わからない、さっぱりわからない。深く考えたら負けな気がする。それにいやほらあれだ、旅館とか温泉とかなら男同士風呂に入るのもちっとも珍しいことじゃない。きっとそうだ。
「てかさ、時計狙おうぜ、まず」
「だって時計は脱衣所だったじゃない。だからまずあなたを倒してから」
「その戦略は間違ってないと思うぜ。だからオレも恭弥を倒してから」
「最悪」
「そういうなって、すーぐ落ちちゃう恭弥が悪いんだろ。まあ状況を考えれば、結構いいパンチだったぜ」
「嘘ばっかり。接近戦は苦手なんだよ」
 ぷいと横を向いた弟子の頭を撫でて、どう見ても中距離戦に向くのであろう武器を常に携えているマフィアのボスは微笑んだ。全裸での戦いについて深く知りたくなくて、綱吉は遠い目をした。
「でな、ツナ」
「………………はい」
「恭弥がまだ戦い足りないっていうんだ。そんでさ、うちのチームまだウォッチが」
「お断りします」
 え? とかなんで? とかむしろなんでそう聞かれるのかわからない問いを師弟が発するのを見ながら、例え家庭教師のためであろうともこのような戦力追加は死ぬ気で断るべしと綱吉は決意を固めた。







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