ファッション討論


「だってあとから聞いたけど、あのアーデルハイドって奴、氷を扱うんだったんだろ? そんなとこで戦うなんて体壊さないか心配だぜ………あのVGはいつもの服よりだいぶあったかそうだけど、でも気をつけろよ? おまえひとりの体じゃないんだからな!!」
「僕の体は僕の物だよ」
「いーや、違う。共同名義だ。だからその分優しくさせてくれ」
 ぎゅむぎゅむと弟子を抱きしめる兄弟子に心の底から驚いた。誰に対しても過保護というか、世話焼きな傾向はあるけれども、ここまで過剰に感情を露にするさまは初めて見たのだ。っていうか綱吉はただ、雲雀さんのVGをどう思いますか? と聞いただけだ。あの強大な敵の群れを羽虫のように蹴散らすVGのことである。つまり正直初めて見たときにはちょっとびっくりした、どこぞの暴走族の特攻隊長みたいな服については触れるつもりはなかった。どうにも評価しづらいものだったからだ。だが質問以降この師弟は、「恭弥は何でも似合うからな」「当然だよ」とこちらの意向も知らずあの恰好の話ばかりしている。戦いにおいて腹が冷えないかなぞ問題にしている場合だろうか。そんなことをいったらお兄さんなぞボクサーであるのだからして、戦闘となればすぐにパンツ一丁にならざるを得なくなるではないか。てか少し前までオレもすぐパンツ一丁になってたんですけど、そんな心配一度もしてくれませんでしたよね、ディーノさん。
「だって恭弥、体弱いだろ? あんま無茶すんなよ」
「してないよ。楽勝だった」
 ふん、と得意そうに雲雀がいう。だがまだ心配げな兄弟子は、弟子を後ろから抱き締めたまま下腹をさすっていて、優しく慰撫しているだけだとは頭ではわかっているのに、なんていうかこう、目のやり場に困った。いやらしい。
「だって恭弥かわいいし、体弱いから、すぐ腹壊すだろー。心配だぜ」
「かわいくない」
「わかってないだけだって。かわいいぞ」
「弱くもないよ」
 自信満々にいいきった人は確かにとんでもなく強い人だ。だが風邪をこじらして入院したりもすることは綱吉も存じている。確かにあんな寒いところで戦えば心配ではあるだろう。
「すぐ腹壊すじゃねーか」
「それはあなたのせいだよ」
「うんそれはオレのせいだけどな、でも恭弥がかわいいせいでもあるだろ?」
 なんだそれ。なんかそういう、腹痛になりやすい傾向、みたいなものがあるのだろうか? かわいい、という表現にはとてもとても首肯できそうにもないが、今見ている様子だと兄弟子は初孫をかわいがる祖父母が如くに、望まれれば腹を壊すほど菓子でも何でも買い与えてやりそうだと、綱吉は思った。
「ワオ。人のせいにするつもり? だいたいあなたが中でだ」
「いや! だからそれは恭弥がかわいいからだろーオレも悪いけど! もう最近なんてイく直前は世界平和だとかなんだとか考えてなんとか」
「なにそれ。僕のことだけ考えてなよ」
「わ。………おおお、そうだな」
「そういうときは。礼儀だよ」
「うーん………むしろいつも考えてるぜ?」
「嘘ばっかり」
「ほんとだって。自分でも困っちまうくらいだ。なんとかしてくれ」
 腹痛の原因はわからない。さっぱりわからない。まったくわからない。
 ただ礼儀正しい兄弟子たちがお互いをテーマにした思索に耽りだしたので、綱吉は世界平和について考えた。とりあえず考えた。ああきっと、世界中に住んでいる人たちはみな同じように、日々の瑣末事に終始してそれでも幸福を追い求めているんだろうに、何とわかりあえない事柄の多いことか。ごく身近な人間すらわかりあえないというかわかりたくない人がいる、という事実に綱吉は溜息をついた。






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