BLOGで書かせていただいた2009/03/2908/19のネタから派生した二人が義理の親子というネタです。
雲雀さんがわりと気の毒なご家庭の子で(直接的な描写はしてないつもりです)、そこに思うところのあったディノさんが養子として引き取るものの、周囲はゲイ婚だと思っている、という非常にかわいそうな妄想の炸裂した産物です。
それでもかまわないぜ! という豪気な方のみお楽しみくださいませ。

……読む。



























                                                                                                                                                                                                                        
 
南の島でのヴァカンス。アロハシャツははたして何枚必要か?
 
難問である。ちなみにこのヴァカンス、本当に個人的な、正真正銘プライヴェートのものだ。着いたホテルで取引相手主催のパーティやら会食やらが待ち構えているなどということもないし、レジャー施設建設予定地の下見を兼ねていて、一日の四分の三程は周囲のリサーチと関係者との顔合わせなどで忙殺される、などということもない。疑いようもなく、まさにこれは、夏休みなのだ!

 素晴らしい。難問は解けないままいまだ目の前にぶら下がっているが、今すぐ踊りだしたいような気分である。ここまで考えてディーノは苦笑した。まるで子どもだ。バナナはおやつに入るのかと問う子どもと同じじゃないか。何でも聞いたところだと、日本では、遠足等の行事のたびに、バナナを食事とドルチェのどちらにカテゴライズするかが議論の焦点になるらしい。たぶん担任教師の姿勢や行事の種類によって、学校側の対応がころころと変わるということなのだろう、バナナは。
 だが勿論行き先が南の島であれば、きっとバナナはそこらへんに食べきれないほど生えていて、カテゴリー区分に頭を悩ます必要もないわけだ。比べてシャツに関しては重要な問題だ。さっぱり仕事が絡まないとなれば、さっぱり仕事が絡まないとなればだ、その分スーツを着ないですむということであり、その分枚数が必要となるだろう。暑いから汗もさぞかくだろうし、いきなり雨が降ることもあるかもしれない。スコール。どこまで熱帯を思わせる響きだこのやろう。そして砂浜で戦闘ということにもなれば、砂だの海水だので汚してしまう可能性も否定できない。くふふふふふふとディーノは笑った。
 勿論ホテルにはクリーニングのサービスはあるだろう。だが旅の連れはあの雲雀恭弥である。こちらの衣服の違いなど認識している可能性すら薄いが、着たきり雀だと見做される可能性は万が一でも排除しておく必要がある。さてだから何枚持っていくか。考えてディーノは暗澹とした。何故我がクローゼットにはこんなにも沢山の衣服が存在しているのだろうか。
 確かに自分はショッピングが好きである。最早趣味といってもいい。商談と商談の隙間の時間、服屋に飛び込むのは最早日常だ。手軽なストレス解消であり、別荘だの車だのといったものを買うのとは違って、資産価値云々を考えないでもよい。いくら高価な品といっても値段など高が知れている。そこらじゅうに掻き裂きを作ったリメイクジャケットや、腰履きのジーンズ。休みの日にしかとても着ることはできず、だからこそ選ぶのは楽しかった。
 だがアロハシャツは、時々細切れのように加工されて自分に与えられる休みに着るような服ではない。ディーノの服装感覚から言うと、ハワイ以南のリゾート地で初めて着用を許されるものだ。それなのに何故、自分のクローゼットにはこんなにも沢山存在しているのだろう。休みなどなかったことを証明しているかのように、そのほとんどはタグも取られておらず、そしてディーノの夢だとか希望だとかを象徴したかのように激しくビビッドなカラーを湛えている。ちょっと無駄遣いが過ぎたのではないか、とディーノは少々反省した。
「おいボス、悪いがちょっと確認を……ってどうしたこの部屋」
 ノックの音がする。腹心の部下が返答も待たずにドアを開け、そのまま固まった。ディーノもどうしようもない居心地の悪さと罪悪感に身動きが取れない。一言でいうなら、ミスった、これだ。必要になりそうなものをクローゼットから取り出し、取り敢えず部屋の空いているスペースに並べてみたのだが、明らかにスーツケースには入りきらない、そんな気がする。
「休みの用意? 荷造りをはじめてみたんだけどよ、なかなかすすまねぇ」
「そんなの、メイドに頼めばいい話じゃねぇか。いつもそうしてるだろ?」
「そりゃそうだけどよ。これはプライヴェート、だからな。手間かけさせるのも悪いだろ」
 声が弾んでしまっている自覚はある。なんていうか、一度いってみたかった台詞だ。
「そうか。よかったな、ボス」
「おう。こんな長い休みなんて久しぶりだぜ。ありがとな」
 自分が休みだといっても仕事がなくなるわけでは勿論ない。部下の負担が大きくなるわけで、ディーノとしたら最初はこんなに休みを取るつもりは毛頭なかった。だが部下たちが日程を調整し、ホテルなどの手配もしてくれたのである。全くありがたい話だ。
 同盟ファミリーの後継争いに巻き込まれ、気づけば守護者候補の一人を弟子として面倒を見ることになった。雲雀恭弥という、とんでもないじゃじゃ馬である。気が強くて、マイペースで、だがそこがかわいいといえなくもない。この夏、ディーノはその弟子を、今度は息子として引き取ることにした。きっかけは、その後継争いのための戦闘修行中、泊りがけで連れまわしても家に連絡を入れるでもない様子を不審に思い、部下に調べさせたことからだった。勿論マフィアのボスという仕事をしていれば、それよりももっと悲惨な境遇などいくらでも知っている。だが、曲りなりも自分の弟子を、こんな家庭環境に置いておくわけにはいかない、そう思わせるには充分だった。
 同盟ファミリーにはかなりの恩を売ってあったから、案外簡単に話は通った。また雲雀の身内にしても同じで、ディーノの感覚からすれば笑えるほどの端金で、後は本人の意思ばかり、という状況になった。そして、最も手強そうに見えた本人も、拍子抜けな程素直に応諾したのである。手合わせだとか手合わせだとか手合わせだとかで釣れないだろうかなどと考えていたディーノは驚いた。もしかすると雲雀自身も、家庭的なものに憧れがあったのかもしれない。死んでも認めはしないだろうが。
 そんなわけで、諸々の手続きのため、学校の休みを狙って雲雀をイタリアに連れてくることになった。学校があるから普段は日本を離れられないし、ディーノも可能な限り日本に拠点を移そうと、マンションも購入してある。だが、何事にも限度があるので、休みの間は出来ればイタリアで過ごしてほしいと、雲雀には話をしてあった。
 慣れるまで時間もかかるだろう。重要事項だとかいう並盛での祭りが済み次第、そのままつれてくる心積もりだったのだが、側近の部下たちに諸手を挙げて反対された。そんなんじゃ出て行かれても文句はいえねぇぞボス、と泣く奴まで出て、あれよあれよという間に「七泊八日の旅to南の島」の日程が組まれていた。確かに思い返せば学校の休み明けには、クラスメイトたちは皆、どこに旅行にいったの遊びにいったのという話で盛り上がっていたように思う。ディーノ自身はそんなことは最初から期待していなかったし、故郷に戻れるというだけで嬉しくて不満もなかったが、確かに父親ともなれば家族サービスは重要な使命かもしれない。危ない。これは雲雀が臍を曲げてしまうかもしれないところだった。というか、実際話が決まってみれば、自分が楽しみで仕方がない。
「あそうだロマ。オレが戻ってくるまでにな、部屋の準備を頼んでいいか?」
「部屋?」
「ああ、恭弥の部屋」
「そうか、ああ……まああったほうがいいかも知れねぇな。どこにするつもりだ?」
「オレが前使ってたとこでいいだろ」
「子ども部屋じゃねぇか」
「子どもだろー。あ、でもそのままじゃまずいよな。戻ってきたら、家具とか店に見に行くけどさ、一応シンプルな感じで整えておいてくれ」
 一応思い入れのある部屋ではあるし、自分の息子ということであれば、是非雲雀にも使って欲しいと思う。だが、今使用している部屋に移り住んでから、すっかり放ったらかしになっていたのも事実だ。部屋を移ったのはボスを継いですぐの頃で、今の雲雀よりも幼かった。それにそれ以前もずっと全寮制の学校に入れられていたから、部屋の内装はそれよりも更に幼い趣味で固められていることになる。いくら、暇を見て雲雀の要望通り家具を誂えるつもりにしろ、そんな部屋を宛がわれたらいい気分はしないだろう。
「そうだな、カーテンとか絨毯とか、でも机は傷一つなくきれいなもんだったよな、ボス」
「うるせーよ。あと本棚は、辞書とか使えそうなの以外は処分してくれ」
「了解。元々そう入ってねーだろ。楽な仕事だな」
 耳が痛い。本当に勉強嫌いの子どもで、この部下にはよく宿題を手伝ってもらったものだ。
「いや、まったくねーってこたねーだろ。あ、あとベッドも、ファブリックは変えて」
「……ちょっと待てボス、ベッドも用意する気か? ここで寝りゃいいじゃねぇか」
「へ? いやだってもうあいつでかいしさ」
 ひとりで寝れない歳ではないだろう。そういってやろうとして、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた腹心の部下の様子に固まる。いや、オレ、なんかそんな変なこといったっけ。
「このベッドなら寝れなくもないだろ。でかいしな」
「そりゃまーそうかもしんねぇけど……」
 いつの間にやらアロハシャツの海みたいになってるベッドをみながら、ディーノはぼんやりと答えた。それはそう、男二人寝れなくもないくらいのスペースはある。だがそういう問題であろうか。
「何照れてんだ、ボス。前からいいたかったがな、あんたもこんなことになったんだからちゃんと覚悟を持って」
「う? あーうん、そうだな」
 覚悟。そういわれるとディーノは弱い。それはもちろん、並大抵の気持ちで弟子を引き取ることを決めたわけではない。だが、ディーノは若く、子どもを持った経験も勿論ない。簡単に息子として思えるかといえば、それはまた別問題なのだ。いまはまだ、かわいいじゃじゃ馬な弟子、そんな扱いがしっくりくる。だがそれも、きっと年月が解決してくれるはずだ。
 改めてベッドを見る。ここで二人で寝る。少しばかり微妙な気もしないではないが、あの子どもの寝相がたいそういいことも、寝てるときばかりは大人しくてかわいらしいことも、修行の日々を通して知っている。
 物心がつく頃になれば自室を与えられてひとりで寝るのが当然だとばかり、ディーノは思っていたが、部下の反応を見るところどうやら違うらしい。正直、父親とは親子らしい交流を数えるほどしか持っておらず、何が普通かと問われると正直自信がない。父親なりに自分に愛情を持っていたらしいことは、今ではわかっているけれど、幼い頃は寂しさを感じていたのも事実だ。自分の息子にそんな思いはさせたくない。ただでさえ、同じ国にすらいられない時間が多いのだ。それに、確か日本では、親子は川の字で寝るものと決まっているのではなかったか。
「そうだな! この部屋を使うことにする。隣の部屋を恭弥の勉強部屋にするから、机を運び込んでおいてくれ」
「イエス、ボス。全く驚かさないでくれ。俺らはみんな、あんたの幸せを願ってんだからな」
「ああ、あんがとな」
「おう」
 
胸が熱くなって、ディーノは俯いた。本当に自分は、よく出来た部下を持ったものだ。
「まかせとけ。ちゃんと幸せになってやるさ」
 既にそうだ、なんていったら笑われるだろうか。頼りになる部下たちがいて、仕事もそれなりに順調、そして家族が出来る。照れ隠しにディーノはトランクに服を詰めだした。そして旅行、旅行だ。何と幸せなことか。
「ボス? それ全部持ってく気か?」
「おう。かわいくね?」
「いやまあその……恭弥はそういう格好、好きじゃねぇと思うがな」
「う……そうか? いやでもヴァカンスだぞ」
 やはり父親ともなればそれなりの威厳のある格好をしなければならないのだろうか。再びディーノがアロハシャツの取捨選択に悩み始める中、出来た部下はさくさくとトランクの荷物を詰めなおした。
「出来たぜ、ボス」
「え! もうか?」
「おう。いくら破るっていっても十枚あれば充分だろ。Tシャツも入れといたしな」
「そうか……頼りにしてるぜ」
 全くどんな早業だろう、鮮やかな南国柄が取り払われて、見慣れたモスグリーンのベッドスプレッドが露になる。雲雀はどんな色のベッドカバーがいいというだろう。旅行のついでに、キルトか何か買うのもいいかもしれない。
「そうだ。寝具は変えといてくれ。新しいものじゃないと嫌がるかもしれねぇし」
「おう。任せとけ」
 部下は、大きく胸を叩いて見せた。本当に、ありがたい話だ。
 数日後、部屋に戻ったディーノは呆然とした。寝具といわず、カーテンも、壁紙も、全部新しくなっている。ピンク色に。ていうか部屋全体がなんかピンクだった。フリルもついてる。あなたの部屋の趣味ってこんななんだ、とかわいい息子は父親に向けるものとはとてもいえない表情を浮かべて呟いた。数日かけてなんとか誤解は解いたものの、何がどうなってこうなったのか、自分でもよくわからないディーノである。






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