3215(標的231妄想)



「なんだ、あなたも来てたんだね」
「ん? そりゃあなあ。おまえを鍛えてやんねーと」
「そう。びっくりした。未来の世界だって、聞いたから」
 小さく息を吐いて、恭弥が僅かに緊張を解いた。いや、まさか、いくらなんだって。
「あなたも屋上にいたよね。部下も一緒に付いて来たの?」
 ああ、そのまさかだ。そりゃあ若い恋人と付き合っていれば、ちょっとでも若くみられたいという欲はある。実際敵対ファミリーにはよく「この若造が」と罵られてもいるのだ。この努力は全く無駄というわけではないのだろう。だがいくらなんでも限度というものはある。
 出会ったばかりの、十年前の恋人に再び会う。なんとなく懐かしくて、あの頃着ていた物と似たデザインのジャケットを選んでいる自分がいた。だがだからといって。
「いや……恭弥あのさあ」
「もう会えないのかと思ってた」
 見上げてくる黒い目。もう一度息を吐いて、安心したとでもいいたげだった。ちょっと待て。いえねぇ。オレにはいえねぇ。だがこのまま騙してしまっていいものか。
「あのな、その……恭弥」
「あ、でもあなた、なんか肌の張りがなくなったみたいだね。どうしたの?」
「うお! おう……直球だな……。恭弥のことを考えると夜も眠れないからだぜ!」
「……そう。なんか、髪も少し伸びたみたいな気がするけど」
「え、えろいとはやく伸びるっていうだろ。恭弥といるとえろいことばっかり考えちまうからだぜ!!」
「…………ふうん。ねぇあなた、存在自体がいかがわしくなってない?」
「な! 恭弥と今すぐいかがわしいことがしたくて仕方ないからだぜ!!!」
「………………覚悟はいいかな?」
 そういえばここまでは過去のオレが教えていたんだった。とんでもないサイズの鮮やかな炎を纏わせたトンファーを愛弟子は思い切り振りかざした。
「よっしゃやるか。馬鹿だな恭弥。慌てなくても好きなだけ遊んでやるよ」
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